ユーロ・ダンス・インプレッション

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たしか、昨年の芸術関係者のストライキはこのモンペリエ・フェスティバルの初日から始まった。今年は大丈夫なのだろうか。確かに政府の新案には不満がある。しかし、見せたいし、踊りたいし、見たい人はたくさんいた。誰もが不安を抱いていた。フェスティバルは、市町村、自治体、県、国の援助がなくては運営できない。政府が変われば法律ががらっと変わるこの国では、そこの財政を握るのが誰かによって予算が大幅に変わり、フェスティバルが直前に催行不可能になることもある。パリ、リヨンに継ぐ大都市モンペリエでさえ、春に行われた選挙の結果に左右されるところが大きく、ディレクターのモンタナリ氏の心労は想像を絶するものだっただろう。そして、フェスティバルは初日の1週間ほど前にようやく開催を決定し、開催にこぎつけたのは、安堵の一言に尽きる。

さて、私は2日間しか滞在しなかったので、ここが本拠地のマチルド・モニエの新作を逃したのが心残り。何しろ評は真っ二つ。絶賛と悪評。見事なまでだったので、ぜひ何処かで拝見したい。

私が見た中で面白かったのが、ヒップホップ。日本では、まだまだテクニックを見せる域を抜けないそうだが、こちらでは立派なコンテンポラリーダンスとして認められている。

カンパニー・アコーは男2人と女のトリオ。女の私から見て気持ち良かったのは、女性が男性と同じ動きをするところ。女にだってそのくらいのアクロバットは出来るわよ、というつもりではないのかもしれないが、見ていて気持ちが良かったし、男の友情シーンはずんとくる。照明にもう一工夫があればもっと良いのに、と思った。

アクロラップの「DOUAR」はアラブのお兄さんばかり10人。この人達、踊っていなかったら、ただの悪ガキなのだろうなあと妙に感心したりして。しかし、そう感じるのも彼らの動きが日常のものに基づいているからだろう。それぞれの十八番をご披露した後、コインランドリーに持って行く洗濯袋を利用したり、アラブ語でだべったり。芝居と日常の動きとダンスがテンポ良く展開する。このカンパニーはフランス人とアルジェリア人で構成されているが、二国の暗い過去を前提にして生きてきた彼らが、過去と現在を受け入れ、あるがままの今を堂々と、明るく見せたところがよいと思った。日本ではヒップホップのイメージはアメリカの黒人だと思うが、ヨーロッパではアラブ系の人達が多い。ヨーロッパに来たら是非アメリカのとは違う味のヒップホップを見て欲しい。それぞれのお国柄が出て面白いと思う。

さて、コンセプチュアル系のヒップホップを見たことがありますか? ミッシェル・シュウェイザーのコンセプトによる作品といえば、普通とは毛色が違う。「クロニック」というこの作品は、ダンサーであるハミッド・ベンマイ自身の生い立ちをなぞるかたちで進行していく。子供の頃の環境、踊りとの出会い、かの有名なロゼラ・ハイタワー学校での日々等をスライドと共に語っていく。彼の生い立ちも面白いが、何より、彼の自信、ダンスを偶然にやっているのではなく、自分が選んだ道でここまでやったのだという自負が、オーラのように出ていた。そこに好感を持ったが、それを証明するだけの踊りをもっと見たかった。

私にとっての目玉は、プレルジョカージュの新作「N」だったが、今回これに関してはノーコメント。ヴァイオレンス、つまり、憎しみ、暴力行為、拷問、戦争など、あらゆるジャンルの暴力性を表現するという触れこみだった。しかし、ダムタイプのようなサンプリングの音と何十分にもわたるフラッシュに私の身体の方がぼろぼろになってしまった。後半は目が痛くて何も見られなかったので感想は書けないが、その3週間後に同じ作品をエクサンプロヴァンスで見た人が、絶賛していたのには驚いた。これがプレルジョカージュのすごい所なのだが、作品を創ってもその上にあぐらをかかない。つまり、彼は世界初演をした後の3週間で、作品を大きく変えたらしい。冷静に分析し、作品に手を加える。この精力的なカンパニーは世界のあちこちを回るので、是非もう一度「N」改訂版を見てみたい。(C)LAURENT PHILIPPE

岩下徹がうぐいす張りのひのきの舞台を持ち込んだ作品「ナイチンゲール」。客も岩下も同じ舞台の上にいる。当然即興になるわけで、見た人の感想が違うのが面白い。ただ、せっかくうぐいす張りの床なのだから、その特徴のある音を聞かせる時間があっても良かったのではないか。この床は決して古びて音が鳴るのではなく、わざと音が鳴るように出来ているのだし、このような床はヨーロッパには存在しないのだから。

今年のビデオダンスは大きなスクリーンと何台ものモニター、そしてリゾートチェアーや寝そべられる大きなクッションやらを広いスタジオに置いてくれていたので、くつろいで見れたのが気持ち良い。朝はゆっくりして午後から始まるビデオダンスを見て、その後は夜遅くまで公演を見るという、ダンス三昧のモンペリエでありました。

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