
副題にあるように、フランシス・ベーコンに触発されて創った作品で、9場面から成り立ち、それぞれのシーンに名前がついている。最初のシーン BLOOD ON THE FLOORは、ジェレミー・ベランガールとマチアス・エイマンのデュエット。1人の中にある2人の自分、という印象を得た。つまり、同じ振付けをなぞっているのに、全く違う動きに見えるのだ。それでいてどこかでぴたりと一致する。1つのものがぶれて見えるような、不思議な印象が残った。次のJUNIOR ADDICTは、マリー=アニエス・ジロのソロ。トランペットのゆっくりとしたジャズが流れる中、黒い身体がゆっくりとうごめく。良く動いているが、ジロ特有のダイナミックさを感じられなかったのが残念。3場のSHOUTはドロテ・ジルベールとローレーヌ・ルヴィ、マチアス・エイマンとジェレミー・ベランガール。ルヴィがスケールの大きい踊りをしたのが新しい発見で、これからさらに延びていくダンサーだと思う。SWEET AND DECAYでは、マリー=アニエス・ジロの相手役を踊ったオードリック・ベザーの上半身の動きに注目するものがあった。そして、ジロがアリス・ルナヴァンを無機質な動きで叩き殺すようなラストに背筋がぞくっとした。5場のNEEDLESでは、それまでの暗いイメージがぱっと晴れて、オレンジ色のミニのワンピース姿の女性4人の競演。ELEGY FOR ANDYでは、オーレリー・デュポンと彼女の夫であるベランガールのデュエット。出産後とは思えない張りのある踊りと、さすがに息の合ったデュエットにため息が出た。その後、CUT UP、CRACKDOW、DISPELLING THE FEARSと続くのだが、バレエ団のそうそうたるメンバーが出演して(エトワールが5人も出ている!)、踊りの見せ場がたくさんあるにも拘らず、ダイナミックさを感じず、会場の空気が動かず、心に響かないというのはどうしたことだろうか。(7月6日オペラ座バスティーユ)

BLOOD ON THE FLOOR (C)Anne Deniau

SWEET AND DECAY (C)Anne Deniau

これは、2008年10月に初演された作品で、2シーズン振りの再演となる。今回主演のバプティストを踊るのは、マチュー・ガニオ、ステファン・ビュリヨン、ブルーノ・ブシェの3人。相手役のギャランスは、イザベル・シャラヴォラ、アニエス・ルテステュとエヴ・グリンシュタイン。シャラヴォラをイメージして作られた作品というが、ビュリヨンの踊る日を選んだところ、ギャランス役はルテステュとなった。ルステテュは、すらりとした容姿が舞台でひときわ映え、どこにいても目を引く存在感だ。どんな状況にあっても気品を忘れず、そして計算高い女でもあるギャランス役としては、まさにぴったりだと思う。しかも、細かい目線の使い方が彼女の心境を的確に表している。バプティストを思う気持ちは強いのに、つい目の前にいる別の男性を惑わす視線、男友達と遊ぶ時の目線、状況を打開するために敢えて伯爵を受け入れる表情、バプティストと再会した時の上気した顔、そして全てを捨てて去っていく時の遠くを見つめるまなざし。ギャランスの内面をここまで的確でありながら繊細に表現し、彼女さえ見ていれば場面の状況がわかると言っても過言ではない演技と踊りは、さすがエトワールの貫禄。バプティストのビュリヨンは、愛に不器用な男を良く演じ、優しすぎる故に決断できず、2人の女性を不幸にしてしまう役をこなしていた。彼は王子役より、憂いを持った役の方が合うように思う。バプティストの友人のフレデリック役のフローリアン・マニュネは、プルミエダンサーになってから自信がついたのか、観るたびに良くなっている。もともと手足が長い上に、伸びがあり、動きにメリハリがある。そして、舞台ではちょっとおどけて、ちょっと便乗ものの役を演じ、幕間のホール大階段でのオセロも熱演し、大活躍。踊りそのものがシャープだったのが、ラスネール役のヴァンサン・シャイエ。確かに良く踊るダンサーだという認識はあったが、ここまで素晴らしい踊りをするとは思っていなかった。あまりの上手さに物語を忘れて見入ってしまったほど。もちろん、キザな悪党を見事に演じ、役作りも完璧。そして、男好きの下宿屋の女将を演じたヴァレンティンヌ/コラサントの愛嬌たっぷりの踊りに会場は沸いた。かかと付きのトウシューズで踊る感覚とはどんなものなのだろうか。今シーズンを持ってオペラ座を去るジョゼ・マルティネス。最終日にはバプティストを踊ったそうだが、今後の活躍を期待したい。(7月8日オペラ座ガルニエ宮)

(C)Julien Benhamou
パリ、ダンスの夏
第7回を迎えたパリ、ダンスの夏。今年は、マイアミ・シティ・バレエ団を7月6日から23日までシャトレ劇場で迎え、9月8日から17日までシャイヨー劇場でミカエル・バリシニコフとアンナ・シンヤキナが演じる「イン・パリス」が行なわれる。

芸術監督のエドワード・ヴォレラは、60~70年代にニューヨーク・シティ・バレエ団で活躍し、1986年にマイアミ・シティ・バレエ団を創設。彼の力強いダンスを受け継いだダンサー達の踊りが期待される。3週間に渡る会期の演目は、バランシンの「シンフォニー・イン・スリー・ムーブメンツ」「タランテラ」「バレエ・インペリアル」「スクエアー・ダンス」「ワルツ」「ザ・フォー・テンペラメンツ」「テーム・アンド・ヴァリエーションズ」「ウエスタン・シンフォニー」、ジェローム・ロビンスからは「牧神の午後」「イン・ザ・ナイト」、トワイラ・サープの「イン・ジ・アッパー・ルーム」「ナイン・シナトラ・ソングス」、ポール・テイラーの「PROMETHEAN FIRE」、そしてクリストファー・ホイールドンの「LITURGY」と、多彩な演目を上演した。
若いダンサーが多く、エネルギッシュな踊りが売りという前評判通り、良く鍛えられたダンサー達の競演は見る価値がある。私が見た「シンフォニー・イン・スリー・ムーブメンツ」は、角度がきっちりと揃う力強いユニゾンが印象的だったし、白いスタジオでの白昼夢を描くロビンスの「牧神の午後」は、こちらにまで柔らかい風が流れてくるような、甘くはかない後味を残した。ホイールドンの「LITURGY」はデュエットで、上体を使ったダイナミックで流れるような動きが素敵だったし、ラストの「バレエ・インペリアル」では、シャープなデュエットと構成の美しさを生かした群舞にため息が出た。
フェスティバルの2番目の演目であるバリシニコフとアンナ・シンヤキナとのデュエットが待ち遠しい。(7月9日シャトレ劇場)

「シンフォニー・イン・スリー・ムーブメンツ」(C)Joe Gato

「牧神の午後」(C)Joe Gato

「LITURGY」(C)Joe Gato

「バレエ・インペリアル」(C)Joe Gato
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